マルグリット・ゴルドバーグは、損をしたことがない。
少なくとも、帳簿の上ではない。くり色の巻き髪を肩に落とし、細い金のふちのめがねをかけ、旅のあいだも仕立てのよい深緑の上着をくずさない。二十七になる隊の商人は、姫騎士隊の金と荷を銅貨一枚の狂いもなくあずかっていた。
隊の中で、彼女はいちばん年が上だ。そのせいか、兵たちは困りごとがあると、まず彼女のところへ来る。
「マルグリットさん、国の母に金を送りたいんですが」
「まあ。でしたら、次の町の両替商を通しましょう。手数料は、わたくしが話をつけますわ」
「マルグリットさん、くつの底がぬけちまって」
「あらあら。荷車の三台目に、替えがございます。お代は、来月のお給金から少しずつ」
声はおだやかで、ほほえみはやわらかい。胸も腰もゆたかで、歩き方はゆっくりしている。隊長が隊の背骨なら、マルグリットは隊のふところだった。彼女が帳簿を開いているかぎり、百と八人の兵はあすのパンを心配しなくてよい。
怒ったところを見た者はいない。
値切るときも、彼女は笑っている。相手の言い値を聞き、うなずき、「それは、お高うございますわね」とやさしく言う。それから、相手がなぜその値で売りたいのかを、三つ四つていねいに言い当てる。たいていの商人は、そこで値を下げる。
頭の中では、いつもそろばんが鳴っている。
*
マルグリットには、加護がある。
そろばんの玉をはじくと、目の前の品の値が頭に浮かぶ。麦ひと袋、馬一頭、古い剣、宿のひと晩。王都の市場で十五年、一度も外したことのない加護だった。
商家の娘に生まれた。父は人がよく、帳簿が下手だった。つけまちがいがもとで、店は一度つぶれかけた。十二の娘が夜中に帳場に入って、ひと月ぶんの帳簿を一人でつけ直した。それで店は持ち直した。
それからずっと、彼女は数えている。
何を見ても値をはかる。何を言う前にも損と得をはかる。笑うのは、笑ったほうが得だからだ。怒らないのは、怒ると損だからだ。気を悪くしても顔には出さない。出して得をしたことが一度もない。
計算をやめたことが、十五年一度もなかった。
やめ方をもう忘れていた。
ひとつだけ、彼女がおぼえていることがある。
店の裏に小さなぶどう畑があった。秋になると、近所の娘たちがおけに入って、はだしでぶどうを踏む。七つか八つのマルグリットも、すそをからげておけに入った。
足の裏で実がつぶれる。ぷちり、ぷちりと。皮がやぶれ、汁が指のあいだからあふれる。つぶせばつぶすほど、足の下がやわらかくなっていく。
楽しかった。何も考えずに、ただ踏んだ。
母が来て、おけから引っぱり出した。
「はしたない。商家の娘が、そんなに足を上げて」
それきり、ぶどうは踏んでいない。
*
王都を発って十二日、マルグリットの帳簿には、おかしな数字が並びはじめていた。
ろうそくの減りが遅い。書庫の荷車で毎晩三本使っていたのが、一本になっている。ノクティアが早く寝るようになったのだ。
薬草の減りも遅い。聖女の手当てだけで兵のけがが治ってしまう。薬代が半分ですんでいる。
ジルはさいころで勝ちつづけている。兵たちのふところから、銅貨が三十一枚盗賊の袋へ移った。
隊長は道をまちがえない。古い渡し場を思い出して三日ちぢめ、次の峠では、がけくずれの前に回り道を決めた。
四人とも、調子がよすぎる。
商人はうまい話をうたがう。値が上がれば、わけがある。わけの分からない上がり方は、あとで必ず下がる。マルグリットは帳簿をめくって、四人の調子が上がりはじめた日を順にさがした。
隊長が王都を発つ二日前。ノクティアが六日目。リリエルが三日目あたり。ジルが九日目。
ばらばらだった。ただ、どの日よりも前に、ひとつだけ帳簿に足された行がある。
「召喚者・一。荷の番」
値の欄は空いたままだった。
マルグリットは、その空いた欄をペンの先でたたいた。
値を書いていないものが帳簿にある。それは彼女にとって、歯のあいだに何かはさまっているような気持ちの悪さだった。十二日そのままにしてきたのには、わけがある。王命で預かった者に、値をつけてよいのか。人に値をつけるのは、商人の作法に反する。
けれど、あれは人だろうか。
たき火の向こうで、黒いかたまりが伏せている。彼女の目はひとりでにそちらへ行く。行くたびに、めがねの奥で何かがちりちりする。
あの伏せた背中を見ていると、足の裏がむずむずしてくる。くつの中で指が動く。
荷箱の下で、くつの先がまたぴくりと動いた。
動いて、止まった。
*
次の日の昼、隊は小さな村で荷を買い足した。
麦の買いつけはマルグリットの仕事だ。村の倉の前に荷箱を二つ並べ、ひとつに座り、ひとつに帳簿を置く。兵が荷車から空の袋をおろしている。
「荷の番を、こちらへ。袋を数えさせますわ」
副長が国田をつれてきた。国田はマルグリットの前でひざをつき、額を土につけた。
足の裏がむずむずした。
彼女はほほえんだまま、そろばんを左手に持った。右手の指を玉にかける。目は国田の後頭部を見ていた。
値をつける。十二日ぶんの気持ちの悪さを、ここで終わらせる。
ぱちり、と玉が鳴った。
マルグリットはまばたきをした。もう一度はじいた。三度はじいた。それから、そろばんを帳簿の上に置き、めがねを外して布でていねいにふいた。かけ直して、四度目をはじいた。
同じだった。
「……零」
小さな声が出た。
銅貨一枚にもならない。売ろうとしても誰も買わない。こわれても誰も困らない。そういう値だった。十五年ではじめて見る数字だった。道ばたの石にも、銅貨の十分の一ほどの値はつく。
零のものが帳簿にある。
そして、その零のもののまわりで、四人の女の調子がわけもなく上がっている。
マルグリットは羽ペンを取った。値の欄にまるをひとつ書いた。字が少しおどった。
胸の中で、何かがかちりと鳴った。
値が零なら、帳簿の上ではないのと同じだ。ないものには、何をしても損が出ない。
「そこに、伏せたままでいらして。袋は、兵のみなさんが数えますから」
国田はうなずいた。
彼女は座ったまま、右のくつを国田の背中に乗せた。
乗せただけだった。荷箱に座ると足が少し浮く。足を置く台がほしかった。それだけのことだ。
むずむずが消えた。
かわりに、足の裏からあたたかいものが上がってきた。革ごしに、国田の背中がゆっくり上下しているのが分かる。
「……まあ」
息がもれた。
倉のあるじの女が出てきて、麦の値を言った。ひと袋、銅貨四十。
マルグリットは足を乗せたまま、ほほえんだ。
「それは、お高うございますわね」
いつもの言葉だった。けれど、その先がいつもとちがった。
相手の倉の奥に、去年の麦が残っていること。新しい麦が入る前に、それを手ばなしたがっていること。となりの村の倉が先月、値を下げたこと。知るはずのないことが、すらすらと口から出た。見えるのだ。相手の顔の動きから、倉の戸のすき間から、足もとの土のしめりぐあいから、何もかもが読める。
ひと袋銅貨二十八で、話がまとまった。三割引きだった。
倉のあるじは、首をひねりながら奥へ引っこんだ。
マルグリットは足の下を見おろした。
国田は同じ形で伏せている。背中に彼女のくつの土がついていた。
「……あなた、零のくせに」
つぶやいて、彼女は足に少しだけ重みをかけた。背中がわずかに沈んで、もとに戻った。
やわらかかった。
足の裏がそれをおぼえていた。二十年前の、秋の、おけの中の。
マルグリットは足を引いた。引くのが、思ったよりむずかしかった。
*
その夜、彼女は荷車のかげに国田を呼んだ。
荷を見はらせるという名目だった。副長は何もうたがわなかった。荷のことは、何でもマルグリットにまかせてある。
荷車と荷車のあいだに荷箱を二つ置く。ひとつに座り、ひとつに帳簿とランプを置いた。国田は足もとに伏せている。
「わたくしは、商人ですの」
誰に聞かせるでもなく、彼女は言った。
「値の分からないものには、手を出しません。あなたの値は、分かりました。零ですわ。ですから、これは、ただの値ぶみの続き。零のものが、どれだけのものを生むのか。それを、帳簿につけるだけ」
筋は通っていた。商人として、当たり前のことを言っている。
「背中を、お貸しなさい」
国田は、小さくうなずいた。
両足を乗せて、帳簿を開いた。
昼の麦の買いつけをつける。三割引きで二十袋。浮いた金が銅貨二百四十枚。ペンがすべるように動いた。
つけながら、足が動いていた。
くつの底で、国田の背中をゆっくり踏んでいる。右、左。右、左。字を書く手の調子に合わせて、ひとりでに。踏むたびに、背中が沈んで戻る。
マルグリットはそれに気づいて、足を止めた。
「……失礼」
言ってから、誰にあやまったのか分からなくなった。零のものにあやまる商人はいない。
彼女はくつを見た。革のかたい底だ。これでは、足の下のやわらかさが半分も分からない。
ぬいだら、どうだろう。
そう思ったとたんに、母の声がした。はしたない。
マルグリットはペンを置いて、まわりを見た。荷車のかげだ。兵はたき火の向こうで寝ている。誰も見ていない。足もとのこれは、見ていても見ていないのと同じだ。零なのだから。
彼女は右のくつのひもをほどいた。
かかとを持ってぬき、つま先をそろえて荷箱のわきに置いた。ひざの上まであるうすい絹のくつ下を、くるくると巻きおろす。それも二つにたたんで、くつの上に重ねた。左も同じようにした。急がなかった。食事の前に手を洗うような、きちんとした手順だった。
白くて肉づきのよい足だった。指は短くてまるく、つめは桜色にみがいてある。一日じゅうくつの中にあったので、足の裏はしっとり汗ばんでいた。
その足を、国田の背中にじかに乗せた。
「あ……」
声が出た。
あたたかくて、やわらかい。上着の布ごしに、肩の骨の形と、そのまわりの肉の厚みが、足の裏ぜんたいで分かる。息をするたびに、それがゆっくり動く。
マルグリットは目を閉じた。
踏んだ。
右足に重みをかける。沈む。戻る。左足にかける。沈む。戻る。ぶどうのようにつぶれはしない。けれど、踏んだぶんだけちゃんと沈む。
足の指がひとりでに開いて、背中の布をつかんだ。
「まあ。……まあ、まあ」
おだやかな声が少しうわずっていた。
彼女は足を背中から肩へずらした。肩から首のつけ根へ。それから後頭部へ。
黒い髪の上に、白い足の裏が乗った。
頭は背中とちがって、かたくて丸い。足の裏の土ふまずのくぼみに、ちょうどおさまる。マルグリットは、そこに少しずつ重みをかけた。国田の額が土に押しつけられる。
「重うございます?」
やさしく聞いた。
国田はうなずいた。
「そう。でも、どけませんわ。零のものが、重いの軽いのと言っても、帳簿には載りませんもの」
言いながら、足の指で髪をつまんだ。はなした。また、つまんだ。品物の手ざわりを確かめる、商人の指だった。
胸がどきどきしていた。こんなに胸が鳴るのは、はじめて大きな商いをまとめた十七の日いらいだった。いや、それとも少しちがう。あのときは頭が熱かった。いまは、腰から下が熱い。
足を頭から少しずらした。足の裏のすぐ下に国田のほおがある。横を向いて、土についている。
踏みたい。
ここを、足の裏で思いきり踏みたい。ぶどうのおけの中のように、何も考えずに、右、左、右、左と。
マルグリットの右足が宙に浮いた。
ほおの、こぶしひとつぶん上で止まった。
足の指がふるえていた。
「…………いけません」
小さな声で、自分に言った。
「それは、はしたのうございます。商家の娘が、人さまのお顔を、足で。……値が零でも、それとこれとは」
筋が通っていなかった。零のものに、はしたないも何もない。自分でそう言ったばかりだ。
それでも、足はおりなかった。二十年前の母の手が、まだえり首をつかんでいた。
マルグリットは長い息を吐いた。浮かせた足を、そっと国田の後頭部に戻した。
「……きょうは、ここまでにいたしますわ」
帳簿を引きよせて、ペンを取った。字が少しふるえた。
つけ終えると、彼女は身をかがめた。国田の後頭部のすぐ上まで顔を寄せて、くちびるをすぼめた。
唾をひとすじ、髪の上に落とした。
「唾を、つけておきますわ」
ほほえんで言った。
「商人は、ほしい品に、そうするものですの。これは、わたくしが、いちばんに目をつけた、という、しるし。……どなたも、まだ、この品の値打ちに、お気づきでないうちに」
足の裏で、落とした唾を髪にすりこんだ。
*
次の日、マルグリットの勘はこわいほどさえた。
朝のうちに、兵の給金の勘定をいつもの三分の一の時間で終えた。昼には、通りがかりの行商から、馬のくら二つを相手の言い値の半分で買った。夕方には、ひと月先の麦の値まで見える気がした。
帳簿にそれを全部つけた。零のものが生んだ値を足していく。一日で銀貨四枚ぶんだった。
「……利まわりが、よすぎますわね」
彼女はめがねを押しあげた。
足の裏が、きのうより強く、またむずむずしていた。
今夜も、呼ぼう。そう決めて、マルグリットは日がくれるのを待った。
*
その夜は月がなかった。
たき火が小さくなり、兵たちの寝息が聞こえはじめたころ、マルグリットは帳簿をかかえて、荷車のかげを出た。隊長のテントのわきへ、国田を呼びに行く。
国田はいなかった。
いつもの暗がりに、伏せた形のあとだけが、草の上に残っている。
「……あら」
彼女はまわりを見た。
書庫の荷車のほろが、内がわから少しふくらんでいた。ランプの光がすき間からもれている。小さな、とぎれとぎれの声が聞こえた。
マルグリットは足を止めた。商人の耳はいい。値切りの相手の息づかいのちがいを聞きわける耳だ。その耳が、ほろの中の声が何なのかをすぐに教えた。
彼女はめがねの奥で目を大きくした。
ほろが開いた。
国田がひざですべっておりてきた。その後ろから、ノクティアが顔を出した。髪が乱れ、ほおが赤く、半分おりているはずのまぶたがいっぱいに開いている。
「戻って。隊長の見回りが、終わる前に」
言いかけて、ノクティアは荷車の前に立っているマルグリットを見た。
二人とも、動かなかった。
そこへ、後ろからやわらかい声がした。
「まあ。こちらにいらしたのですね。お待ちしておりましたのに」
リリエルだった。法衣の上に肩かけをはおり、手に小さなろうそくを持っている。いつものほほえみのまま国田に向かって歩いてきて、マルグリットとノクティアに気づいて止まった。
ろうそくの火がゆれた。
三人の女が、ひざをついた国田をまん中にして、たがいの顔を見ていた。
誰も何も言わなかった。
足音がした。見回りを終えた隊長が、テントのほうから歩いてくる。
「誰か、荷の番を見なかった? テントのわきに、いないのだけれど」
セレスティアは三人を見た。その足もとの国田を見た。ほろの開いた荷車を見た。リリエルのろうそくを見た。マルグリットの、片手にさげたくつを見た。
マルグリットははだしだった。荷車のかげで、もうぬいで来ていたのだ。
隊長のほおが、月のない夜でも分かるほど赤くなった。
「……あなたたち。こんな夜中に、そろって、何を」
声がうわずっていた。聞いている本人がいちばん答えを知っている、という声だった。
しばらく、たき火のはぜる音だけがしていた。
頭の上の木の枝が、がさりと鳴った。
「あは。……あはははは」
笑い声がふってきた。
「もうだめだ。もう、がまんできねえ。四人そろって、その顔」
ジルが枝からさかさまにぶらさがっていた。腹をかかえて、涙を流して笑っている。
「隊長はテントで足のせて、先生は荷車で、聖女サマは天幕で。商人まで、はだしで来てやんの。みんな、自分だけだと思ってたろ。あたし、木の上から、ぜんぶ見てたんだぜ」
くるりと回って地面におりた。
「ちなみに、あたしもやってる。岩かげで。……あ、言っちまった」
ジルは自分の口をおさえた。
五人の女が、ひざをついた国田をかこんで立っていた。国田は額を土につけたまま、ぴくりとも動かなかった。
*
はじめに口を開いたのは隊長だった。
「私は。……足を、休めていただけよ。手紙を書くあいだ。それだけ」
耳まで赤かった。
「試し」
ノクティアが言った。短く平らな声だった。
「頭痛が消える。古い字が読める。関係があると仮定して、確かめていた。隊長に知らせるのは、確かになってから、と考えた」
「修行ですわ」
リリエルはほほえんでいた。ろうそくを持つ手だけが、少しふるえている。
「けがれた者を前にして、心を乱さない修行。聖女のつとめのうちですの」
「勝つためだよ」
ジルは鼻の頭をかいた。
「あれやった次の日は、さいころが勝つんだ。そんだけ」
四人の目が、マルグリットに向いた。
彼女は、はだしの足をスカートのすその中に引っこめた。それから帳簿を開いた。こういうとき、商人は数字にたよる。
「値ぶみ、でございます」
おだやかな声がちゃんと出た。
「みなさま。この十二日で、隊の帳簿に何が起きたか、ごらんになって」
ランプの下にページを広げた。ろうそくが一日に二本浮いたこと。薬代が半分になったこと。行軍が三日ちぢんだこと。麦が三割安く買えたこと。ジルの袋の銅貨。ひとつずつ指でさした。
「どれも、この方が隊に来てからですの。そして、みなさまが、それぞれ、夜中に何かをなさりはじめてから」
五人は帳簿をのぞきこんだ。
一人ひとりは、気のせいだと思っていた。よく眠れただけ。祈りが届いただけ。たまたま勝っただけ。それが五人ぶん数字で並ぶと、気のせいではなくなった。
「……効いて、いるのね。本当に」
隊長がつぶやいた。
「関係あり、と確定してよい」
ノクティアが帳面に書いた。
誰も、何をしているのかくわしくは言わなかった。足を休めている。試している。修行している。それ以上は聞かなかった。聞けば、自分も言わなければならなくなる。五人とも、それが分かっていた。
ジルだけが、聖女の顔を見てにやにやしていた。リリエルはほほえんだまま、ジルのほうを見なかった。
「では」
マルグリットは帳簿の新しいページを開いた。
「けんかにならないように、時間を割りふりましょう。ひと晩を、五つに。帳簿のことは、わたくしにおまかせを」
ペンが線を引きはじめた。
セレスティアは何か言いかけて、やめた。王女で、隊長だ。隊の者がこっそり荷の番を使っていたと知れば、しかるのが筋だった。けれど、最初にやったのは自分だった。
「……隊の外には、もらさないこと。いいわね」
それだけ言った。四人がうなずいた。
足もとで、国田は伏せたままだった。五人の女が自分のひと晩を五つに切り分けているあいだ、顔も上げず、何も言わなかった。
マルグリットは割りふりを書き終えて、ペンを置いた。それから足もとを見た。
はだしの足の裏が、まだむずむずしていた。
今夜の自分の番は、いちばん最後だ。そう書いたのは自分だった。待つほど値が上がる。商人は、それを知っている。
知っていても、待つのはつらかった。
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